外壁診断にドローンを使うための基礎知識
外壁の剥離診断などに赤外線を活用する際は、赤外線画像解析の基礎的な技術が必要です。
赤外線カメラを搭載したドローンを使って問題箇所が発見するには、まず最低限の基礎技術をマスターしましょう。
【1】外壁診断にはドローンは性能不足、という話は本当か?
半年ほど前、いくつかの外壁補修をやっている会社から、試しにドローンを使って外壁診断をやってみた所、打診検査では発見できた異常(剥離)が発見でできず、外壁の調査に使うにはドローン(の赤外線カメラ)はまだ性能不足、という話を聞いたことがあります。
外壁調査にドローンを活用することについては、既に国土交通省が2024年4月に「赤外線調査による外壁調査ガイドライン」の中で、「一定の要領に従えば、赤外線装置を搭載したドローンによる調査が可能」であることを告知しているし、
高層マンション等の外壁調査をドローンを活用して実施した事例がたくさん公表されています。
なのに、最新のドローンの赤外線カメラが性能不足などということが、本当にあり得るのでしょうか?
これにはさすがに大きな疑問を感じたので、急いで「街の暮らし再生機構(TERS)」が実施している赤外線建物診断技能師研修という勉強会に参加して、赤外線カメラによる外壁診断技術と検査の実態を勉強してきました。
その結果、とても有益な情報を得ることができて、ある仮説が浮かび上がりましたので、簡単にご紹介します。
【2】赤外線解析の知識がないことが原因かも?
TERSでは、赤外線カメラを建物の外壁や屋根の診断に活用して、点検を行うための技術者を養成する研修を開催しています。
この活動は35年ほど前から行われていて、既に4000名程度の技術者が赤外線建物診断技能師として認定を受けています。(筆者も取得しました)
この研修会に参加してわかったことですが、
(1)ドローンの赤外線カメラは、FLIR社など世界中で実績のある赤外線カメラとほぼ同程度の性能であること(空間分解能や温度分解能などの重要な指標において)
だから、赤外線カメラでは調査の実績がたくさん出ているのにドローンではダメということは考えられません。
(2)太陽光パネルのクラスタ診断、屋内の断熱や機密性の検査などと比べると、外壁診断には赤外線の技術(あるいは経験)の蓄積がかなり必要なこと
がわかりました。
つまり、赤外線のことをあまり知らない素人が、いきなりドローンを使って外壁検査をしたところで、外壁の剥離部が見つかるということはないだろうということです。
ドローンが時期尚早という結論は、「ドローンが性能不足」なのではなく、ドローンを使っている人の技術不足が直接の原因であると推察されました。
このように、筆者が暮らしている福岡市やお隣の北九州市周辺では、外壁診断にドローンが役に立つのか疑問を感じている事業者がとても多いのですが、
赤外線の使い方の技術を蓄積すれば解決できる問題であるだけに、非常にもどかしく感じています。
【3】赤外線を使った外壁診断で最低限必要となる知識
外壁診断に赤外線を活用するためには、赤外線の使い方を系統的に学習して技術を身につけなくてはなりません。
これはドローンをデモなどで紹介する販売会社も同様で、飛ばし方やカメラの操作法だけを説明しても、それだけでは現場で剥離部を検出することはできません。
少なくとも外壁診断では、以下の4つの事は最低でも理解しておかなくてはならないと思います。
(1)赤外線カメラの撮影限界距離を理解する
(2)正常部と異常部(剥離部)の温度差が最大となる時間帯に撮影する
(3)赤外線で診断できる外壁素材、工法であるかを事前に確かめる
(4)天空反射、地面反射、近隣からの反射、伝導熱などによるノイズを除く工夫をする
まだ、他にも過去の補修履歴を押さえるとか、画像解析の温度レンジを適切に設定するなどたくさんの技術が必要ですが、各項目を説明すると非常に長くなるので、今回は図表の掲載のみにとどめて、詳細は割愛します。
外壁診断に赤外線を活用をして成果を出すには、これらを理解してドローンの赤外線カメラの使い方(撮影時間や撮影位置など)を決めることが非常に大切なことを今回はお伝えしておきます。
習得しなければならない技術の詳細については、次回以降、時期を見て解説しますね。