ドローンを安全に運航させるために

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ドローンの安全運航に影響を与えるリスクは、操縦技術の上手い下手によるヒューマンエラー(操縦ミス)だけではなく、実はもっとたくさんのものがあります。

例えば、目に見えない電波障害や磁気干渉によってドローンの飛行制御が突然効かなくなる突発的なトラブルなどがあります。

特に業務でドローンを運用する場合は、このような安全運航に脅威を与えるリスクを全て洗い出して、組織的に対策を行うことが必要です。

ドローンを安全に運航させるために

【1】備えるべきはヒューマンエラーだけではない

 
うちはパイロットに日頃から訓練させているから大丈夫、と安心しておられるなら、それはいささか認識が不足しているかもしれません。

ドローンの事故は、パイロットの技術不足やヒューマンエラーが原因(事故の確定要因)になることは確かですが、それだけではありません。トラブルの多くは別のところに発生要因があります。

例えば、筆者がもっとも重要視しているものに、GPSや電波障害によるドローンの制御喪失という重大なものがあります。これにヒューマンエラーが重なって、パイロットが適切な対処をできないと事故になるわけです。

ドローンは、例外なく電波という目に見えないものを使って機体の位置制御を行なっているので、この電波の乱れや磁気の乱れが発生するとドローンは位置制御ができなくなり、ほんのわずかな空気の流れでも激しく流され、あらぬ方向へ飛び出すことになります。

操縦者がこの現象が発生した時に何が起こったのが理解できないと心理的にパニックになり、当然危険回避のための措置もできず、近隣の人や車、建築物に衝突してしまうことになります。こうして事故が起こります。

普段から、GPSが切れても手動で操作(DJIではATTIモードという)できる訓練を相当に積んでいないと、この対処を瞬時に行うことはできません。だから、なんちゃってパイロットさんではダメなんです。

そして、この電波や磁気の乱れによるドローンの制御喪失は、いつでも起こり得るもので、決して珍しいものではないこともお伝えしておきます。

まだ、他にもヒューマンエラー以外で起こり得るトラブル(多くはヒューマンエラーが重なることによって事故となる)がたくさんあるのです。これらを全て洗い出して、対策しておかねばなりません。

それから、産業用ドローンではない一般の空撮用ドローンでは、このような電波の乱れや磁気干渉に対する耐性が産業用ドローンほど強くありません。一般の空撮用ドローンを使用する際は、十分に気を付けるべきだと思います。

【2】許容できるレベルまでリスクを下げる

 
まず、どのような要因がドローンの安全運航に影響を与えるのかを網羅的に洗い出しましょう。

例えば、GPS電波の喪失を例にとると、GPSが喪失してATTIモードになり得るのは、以下の場合です。
(1)切り立った崖の下や、建築物の陰など衛星電波の影になる位置に飛んだ
(2)乱立する建築物によるGPS電波の乱反射(マルチパスという)が起きた
(3)高圧電線や鋼材を大量に含む橋梁などの構造物の近隣(電磁気干渉)を飛んだ
(4)天候不良で衛星電波が受信できないような気象条件が発生した
(5)太陽の磁気あらしなどが発生した

ATTIモードでは、対地高度が25m以上、ドローンを上昇させることができないので、崖下などに飛ばすとドローンの回収ができないという、事故ではないけれど困った事態も起こります。

これらの各々の要因に対して、トラブルを防ぐための対策を検討します。例えば、以下のように3つの角度から対策を考えます。

(1)運用的な対策(リスクとの遭遇を避ける)
①GPS電波の喪失が起こりやすい地形、高圧電線や鋼材を大量に含む橋梁などの構造物の近隣を避ける
②天気予報により悪天候や太陽風の影響が予想される日時を避ける

(2)技術的な対策(リスクの影響を軽減する)
RTK(RealTimeKinetics)に対応した機体を選び、基地局を設定するなど、電波の乱れや磁気干渉に強い機材を用いる

(3)組織的な対策
飛行スタッフ全員が、想定されるリスクを認識して、有事の際の対策を共有して運用する(異常時の対策などの訓練を含む)

このような対策を行うことにより、洗い出したリスクの各々が許容できるレベル(例えば、ドローンの損害賠償責任保険で補償できるレベル)まで下げられたかどうかを評価して対策を決定します。

【3】リスク対策を組織的、かつ効率的に行うために

 
このような対策はパイロット個人が取り組めば良い問題ではなく、業務でドローンを運用する際は、組織的にリスク管理に取り組むようにしてください。

こうしたドローンの運航に関わるリスク管理は、前回の投稿でご紹介した「安全確保措置検討のための無人航空機の運航のリスク評価ガイドライン」(長いので以降、リスク評価ガイドラインと呼びます)を使うと、網羅的に行うことができます。

このガイドライン、リスク評価のためのとても良い視点を提供してくれますが、はっきり言って内容が専門的で難しいという難点があります。(筆者もかなり苦労しました💦)

なので、ご自身でいきなりこのリスク評価ガイドラインを活用しようとするのではなく、筆者が作成した「点検業務のための安全運航マニュアル」を、貴社の飛行マニュアル作成のための雛形としてご活用いただくことをお勧めします。

このマニュアルは、人口密集地域(DID)で行う典型的な点検業務のためのカテゴリー2飛行(人口密集地域における目視内飛行)を想定して、

リスク評価ガイドラインを使用してリスクの洗い出しを行なって、リスクの顕在化を予防するための対策を飛行マニュアルとして系統的にまとめたものです。

リスク評価ガイドラインから出発しなくても、この「点検業務のための安全運航マニュアル」を雛形にして、貴社の業務に合わせてカスタマイズしていただくことで、航空局が推奨するリスク管理方法にもとづいた貴社独自の飛行マニュアルを作成することができます。

いったん航空局へ提出する飛行許可を申請する際に添付して提出してみたところ、

「航空局の許認可業務では、一般のカテゴリー2ではここまで厳しいものは必要ないけれど、社内の人材育成や訓練のツールとして非常に優れた内容である」

とのコメントを航空局の審査部からもらっていますので、安心してお使いいただけると思います。

この飛行マニュアルを抜粋したサンプルを、前回ご紹介したものに加えてさらに1つご紹介します。

<地上リスクの評価と対策↓>
運航計画のサンプル