点検に使う産業用ドローンを選択するポイント

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点検や測量、農薬散布など、業務に使う産業用ドローン(産業機)を選ぶ着眼点について、筆者が思うことをお伝えします。

航空写真や動画の撮影が目的のカメラマンは別ですが、多くの産業利用の場合、ドローンを飛ばすには目的があります。

いかに滞空時間が長かろうと、衝突防止センサーが優れていようと、カメラの分解能が優れていようと、そんなカタログ上のスペックはほとんど仕事には関係ありません。

大切なことはただ一つ、ドローンを飛ばすことによって何が得られるのかとういうことです。

これが産業機を選ぶポイントであり、趣味で空撮に使うドローンや、運動性能を重視するFPVドローンを選ぶ時と大きく異なるポイントです。

ドローン産業機

【1】構造物や建物点検でドローンを使う目的

 

産業利用において忘れてはならないことは、ズバリ、ドローンを飛ばすのには、しっかりとした目的があるということです。

飛ばす楽しさなど関係ありません。お客様からいただく対価に見合う成果物を出さないと意味がないのです。

では成果物とは何でしょうか?

例えば、構造物や建物の点検調査を例に挙げると、成果物は劣化個所の写真を撮るだけに留まりません。

筆者が思うに、改修・補修工事の見積もりのための基礎データを得ることこそがドローン活用の目的です。

では、撮影した写真からどうやって工事に必要な作業の見積もりを行うのでしょうか?

それは写真から、補修個所の面積や長さを算出することで見積もりを作ることが求められるのです。

人の手による計測などよりも、ドローンを使う方がはるかに迅速かつ安全です。この点が、点検業務におけるドローン活用の目的だと筆者は考えます。

しかし、一般的な空撮機で撮影した写真は単なる画像でしかありません。劣化部の大きさを特定できる情報など、画像の中にはないのです。

従って、一般の空撮機を使った業務では劣化部の状況を報告書として作成できても、その大きさまでは特定できないので見積もりには使えません。

これではあまり役に立つとは言えないのです。

現在、多くのドローン事業者が点検業界に参入していますが、残念ながらまだまだ役に立つ報告を作成している事業者はほんのわずかなようです。

こんな状態だからでしょうか、ドローンはまだ役に立たないという誤った評価が建築業界には蔓延しています。

筆者も点検業界への参入を狙っていますので、この点には大いに留意したいと思います。

【2】点検業務に必要な機能

 

それでは、どんな機体であれば、見積もりに使える報告書を作成することができるのでしょうか?

構造物や建物の点検業務を想定した時に、筆者が絶対に必要だと思う性能上のポイントは以下の2点です。

(1)分解能の優れた赤外線カメラを搭載していること

赤外線カメラで剥離などの劣化部分を検出するためには、1ピクセルあたり25mm角の劣化が識別できる瞬間視野角(IFOV)を持つ赤外線カメラが必要だとされています。

例えば、0.65mradの瞬間視野角(IFOV)を持つカメラで、25mm角の劣化部分を、どれくらい対象物から離れた距離で識別できるかを表す撮影限界距離は

撮影限界距離=25mm / 0.65mrad = 29.4m

となります。つまり壁面から38.4m以内で撮影をしないと劣化部分の適切な識別はできないという意味です。

赤外線カメラの撮影限界距離

瞬間視野角(IFOV)が粗くなればなるほど、この撮影限界距離は短くなりますので、電線などの障害物を避けて遠方から撮影をする際に、距離の制限が厳しくなります。

さらに、赤外線画像は、撮影後、専用の画像解析ソフトを使って解析をしないと、ただ撮影しただけでは劣化部分の検出はできません。

赤外線画像を温度データつきで保存できる機体であることが必須ですので、

温度データ付きで赤外線画像を取り出すことができないMAVIC2 Enterprise Dualなどの古い機体では、赤外線点検を行うことはできません。

(2)対象物までの距離を正確に測定できるレーザー距離計を搭載すること

対象物からの正確な距離を測定できるレーザー距離計を搭載していることが必要です。

レーザー距離計を搭載している機体では、壁面からの距離や、地面からの高さやを正確に測りながら撮影を行うことができますし、

また、赤外線画像解析ソフトの画面上に対象物からの離隔距離がデジタル情報として表示されるので、

カタログなどに記載されているカメラの画角の情報と合わせて、三角関数を使って画面上の距離を簡単に計算することができます。

これで劣化部分の長さや面積を計算することができるので、撮影した画像から見積もりが容易になります。

正確にはカメラのレンズの収差も考慮しなくてはなりませんが、収差が生じ難い標準レンズ(焦点距離約55mm程度)が使用できれば、測定上の誤差を最小限にすることができます。

その他、飛行可能時間や、電磁気障害に対する耐性が高いことなども重要な要素になります。

【3】筆者が注目している機体

 

以上のようなポイントを考慮した時に、最も理想なのはDJI社のMatrice350RTKという機体に、H30Tという赤外線カメラを搭載した機体です。

しかし、300万円近い購入価格が必要ですし、機体がやや大きく持ち運びや移動にやや苦労しそうです。

そこで筆者が注目しているのは、つい先日、DJI社からが発表されMatrice4Tという産業機です。

Matriceシリーズのエントリモデルながら、従来のエントリーモデルであったMatrice30Tと比較すると、

機体の大きさや重量が非常にコンパクトになり、MAVIC3Enterpriseのような外観となり、Matrice30Tよりも取り扱いが容易になりました。

(DJI 社Matrice4T(正面))
Matrice4T

(DJI 社Matrice4T(側面))
Matrice4T

また赤外線カメラの性能も、スーパー解像度モードを使用することで、30Tの2倍以上の超解像度で赤外線画像を解析することができます。

Matrice30Tに搭載されていたレーザー距離計とRTKモジュールも最初から内蔵されています。

筆者も、この機体を導入したいと現在計画中です。